2003~2020年度の川崎医科大学衛生学の記録 ➡ その後はウェブ版「雲心月性」です。
川崎医科大学 学報 
2007年12月26日
第3学年保健・医療ブロック見学実習顛末記 - when you see it you'll believe it -

衛生学/保健・医療ブロック主任 大槻剛巳

現在のカリキュラムは,6年前に新1年生から導入された所謂“新カリキュラム”です。そして,第3学年にそれが導入されたのは,4年度前の2003年でした。それまで社会医学/予防医学/保健医療論/公衆衛生学という範疇に入る講義については,第3学年では,ブロック講義を行っておらず,衛生学教室は「環境衛生」「産業衛生」「食品保健」「国民栄養」を担当し,「総論」「地域保健」「人口統計」「母子保健」「学校保健」「感染症」「老人保健」「成人保健」等々のその他の多くの部分を公衆衛生学教室が,それぞれ「衛生学」「公衆衛生学」という授業単位で講義をしていました。また,保健医療については6学年の2学期に,これも公衆衛生学の先生方と健康管理学の先生が中心となられて,所謂集中講義とは異なるブロック講義として行われていました。しかし,実情は,衛生学・公衆衛生学ともに教室員が少なく,結局,座学のマス講義をするだけで,実地体験をするということはほとんどなかったのです。

自らの教室なので事情を知っているだけですが,衛生学では一時期,「環境測定・・・照度や騒音レベルなどを測る」,「有害金属の濃度測定・・・砒素,カドミウム,水銀など」,「水質検査・・・CODの測定など」,そして「食品中の塩分測定や油の測定」を実習として行っていた時期もありました。ただし,それは測定サンプルを教室員が準備して,TVの料理番組の様に,手順通りに行っていくと,結果が出てくるっていうシステムをなぞるだけのことでした。

本来,この領域の実体験としては,老人保健であれば,ちょうど介護保険も導入された後でもありますし「デイケアセンター」とか「老人保健施設」の現場を体験すること。地域保健であれば,同然その中核の「保健所」に出向いて触れてみること。あるいは食品保健では栄養学の先生の下で,栄養と健康のかかわりを自ら体験すること。また感染症や,もしくは特殊な疾病に対する国の施策などについても,そのような場に出向いて実態を観ることから始まるはずです。産業現場も然りですし,環境保健の範囲である上下水道や廃棄物処理も,小学校で見学するのとは違う意味で,「下水処理場」や「ゴミ処理場」を見てみること(これは,もっと昔に衛生学の授業の中でおこなってましたけれど・・・)が,重要になってきます。また産業衛生なんて工場の現場に行かないと何も見えないのです。それも,1学年100人以上が同時に行って観させていただくのでは,結局,大半は後ろの方で見えるか見えないかのような状況で,ぼんやり過ごすことになってしまいます(実際に衛生学で下水処理場に伺わせていただいていた時は,50-60人でゾロゾロ歩いていた様な具合で,あまり有意義ではありませんでした。



でも,いかんせん,衛生学教室や公衆衛生学教室単位で授業を構成していると,正直,どこかの見学実習に行こうと企画しても,引率する人数を3人ほど確保するのがやっとで,効率的に少人数で見学実習に出向くという案は眠らせざるを得ない状況だったのです。

しかし,そこに新カリキュラムが導入される!ってことになれば,既存の授業の枠組みをある程度,改変していくことが出来る! そして,当時,4年程前ですが,公衆衛生学と衛生学の教室が一体化して見学実習に向かえば,ある一日,引率教員が5人は確保できることに気付きました。当時,公衆衛生学は角南教授でいらっしゃいましたが,その話を問いかけてみさせていただくと,角南先生としてもそのような形態の見学実習をしたい気持ちは山々であったとのこと! よし,それなら,実施しましょう! そして,そのような見学実習形態を取るのなら,いっそのこと授業も関連教室が一緒になって,所謂本学で開学時より伝統として行われている「ブロック講義」の形態を取ることで,多くの教室が授業にランダムに参加することも問題がない! ということになり,では,どんどん進めてみましょう! っていう話になりました。

勿論,カリキュラムは9月下旬の教務カリキュラム合同委員会に次年度案が提出されて学年担当が調整しながら翌年度案の最終形は,11月初旬の同委員会で了承されて,同月の教授会に諮問され承認を受けることに,その当時もなっておりました。幸いなことにっていうか,これらの授業が関連する第3学年は,当時の学年担任をなさってらした免疫学前教授の高田先生が大学からの指名でオックスフォードに出向されていまして,偶々私が第3学年担任の代行をしていたので,このような決定のシステムを把握することが出来,それなら急いで・・・つまり,9~11月の間でその予定を立てないとならないってことになったのです。

関係の学内の先生方に,まず,ブロック化の案,そして見学実習を導入する案の了承を取らせていただいて,その後,何回となく放課後に応接室やカンファレンス室で会議を持ちました。まず,何箇所くらい行けるのか? 午後だけでよいのか? 学生諸子全体を何班に分けて行ってもらうことにするのか? それよりも,どこに行くか?  等々,侃々諤々に近い感じで,多くの討議を繰り返しました。

その結果,現在とは少し異なりますが,現瀬戸内市のハンセン病療養施設である長島愛生園,現浅口市の老人保健施設/リハビリテーション・デイケアセンター,地域保健の一つの核としての岡山県環境保健センター,そして産業衛生での心身両面にわたる健康保持増進措置(THP:トータルヘルスプロモーション)の現場としては工場ではないのですが事業として展開請負をされている淳風会健康管理センター,そして,工場現場は現赤磐市の缶製造工場の5箇所へ伺わせていただくことが決まりました。

そして,翌年からはこれらに加えて,福祉大学栄養学のご協力を得て,福祉大で行う栄養実習,また,下水処理や廃棄物処理を見せていただくということで以前に衛生学教室単独で伺わせていただいていた水島清掃工場と水島下水処理場が加わり,年7回となりました。またその年からは,環境保健センターに代わって倉敷市保健所が受け入れてくださり本当に地域に密着した内容を観させていただけることになりました。

勿論,実際に最初の年に見学実習を開始するまでには多くのことを考えないとならなかったのも事実です。全7箇所に100余人の学生諸子を7班に分けて,順繰りでローテーションできれば編成は簡単なのですが,それには,見学先施設に年7回のご面倒をお願いすることになる。そして,施設によっては,やはりそこまでは出来ないとおっしゃる施設も多い。正直,うちは年O回にしてほしい,とか,最大OO人で来てほしい,とかのお話も頂きました。全施設に全学生諸子が抜けることも被さることもなく行ける班分けと日程の調整をすること。あるいは,学生と教員の服装をどうするのか? バスで行くのか? 行くとしたら,先方に何時に到着すれば十分な見学実習をしていただけるのか? 課題はどうするのか? その提出はどうするのか? 評価はどうするのか?   等々,今は可也の部分は,忘れてしまいましたが,結構,その調整と折衝で時間も費やしましたし,また,特に公衆衛生学角南前教授は,本当に時間を惜しんで調整がうまくいくように調整してくださいました。

勿論,こんな過去の話を長々と話してもしかたありません。今は,実際に7箇所,それもバラエティーに富んだ見学先施設となり,学生諸子も真剣に取り組んでくれているように感じられます。そして,今年度の写真を少し紹介します。

「百聞は一見に如かず」ではないですが,やはり教科書の言葉としてのみ把握しているのと,その行間にある実態について,その目で見て,その耳で音を聞いて,肌でその場の空気を感じることは,どれだけの時間を座学で費やしても得られない生の教材として,教材というよりも,将来医師になっていく学生諸子にとっては,臨床医学とは異なってはいるが,それでも確実に医療の現場であるこういった施設などを体験することとして,残ってくれると信じています。

さぁ,みんな,楽しく元気に,そして充実した見学実習に行きましょう!!!